内容
アルコールエネルギー資源保有の高分子膜の創製
1. 水選択透過性膜の研究
資源、エネルギー、環境問題の解決の必然性が問われて久しい。世界中で容易に確保できる資源の一つとして、日常廃棄さているセルロースが注目される。例えば、稲ワラ、麦ワラ、トウモロコシの茎、サトウキビの搾りかすなどの未利用セルロース資源をバイオ発酵させると、発酵エタノールが得られる。このプロセスから得られるエタノールは約10wt%程度である。したがって、エネルギー源として用いるためには何らかの方法で高濃度のエタノールとする必要がある。希薄なエタノール水溶液を濃縮するには、一般に蒸留法が用いられている。しかし、蒸留法では共沸組成 (96.5wt%エタノール) で、それ以上の濃縮が不可能である。この共沸組成のエタノール水溶液から水が選択的に除去できれば、より濃度の高いエタノールが得られる。この濃縮、分離に膜分離技術の一つである。浸透気化法では供給液が膜に直接触れているため膜の膨潤あるいは収縮のため膜性能が高くない。
2. アルコール選択透過性膜の研究
前項で述べたバイオ発酵から得られる約10wt%のエタノールを蒸留プロセスにかけることなく、直接膜分離法でエタノールが選択透過でき、濃縮できればエネルギー的にも当然有利である。そこで、従来からエタノール選択透過性膜として知られているポリジメチルシロキサン膜を気化浸透法に適用すると、10wt%エタノールが90数wt%までに選択的に透過濃縮された。しかし、透過速度が著しく低く、実用的でなかった。これらの結果を基礎にして、エタノール選択透過性と透過速度を高める目的で、新たに温度差制御気化浸透法を開発した。この方法では、供給液温度と膜周辺温度を調節して、温度差を付与することができる。そして、従来有機液体混合物の分離には緻密膜が用いられてきたが、本法には多孔質膜の適用が可能となった。すなわち、高い透過速度が期待される。この温度差制御気化浸透法に用いる多孔質アルコール選択透過性膜の調製に溶液湿式法、凍結乾燥法を用いて種々の検討を加えている。バイオ発酵からのアルコールを直接濃縮できる膜分離プロセスの開発は、現在のところ国内外でみられないので、大きな期待がかけられている。